「あの法律事務所はどんな事務所?」意外と知らない「働く場」としての法律事務所を、編集部があなたに代わって取材します。編集が見たオフィスのこだわりや工夫もご紹介。
「新人教育にはOJTといわれますが、経験させることと経験を通じて知恵や技を身につけることは別。経験を通じて具体的な指摘、課題付与を行い、その結果を点検し、また指摘と課題付与を行う。この繰り返しが必要であり、単なるOJTでは経験はさせるが教育指導は放置する、といったことになりかねません」
そう話すのは、今年で創立30周年を迎える藏王法律事務所の松原曉弁護士(28期)。長年一人で行ってきた事務所運営を、「依頼者に迷惑をかけないよう、後進を育てたい」との思いから方向転換。7年前から機能的な事務所づくりに着手し、弁護士6名、事務スタッフ6名にまで規模拡大をはかった。同時に若手育成ツールとしてITシステムの中に「Eルーム」を設置。「戦略的な解決力を持つ事務所、依頼者の目線に沿える事務所」を経営方針に掲げ、独自の手法で案件管理、進ちょく管理を行っている。
「仕事は見えるようにしましょう、というのが私の考え方。依頼者の相談内容は書記役の弁護士がパソコンに入力し、相談後すぐにペーパーにして依頼者にお渡しします。依頼者はメモの必要がなく相談に集中できますし、弁護士自身も聞き取りが不十分だったとか、相談内容を反すうすることができるため仕事の精度が高まっていきます」(松原弁護士)
「聞き取り」後は事実について時系列表を作成。そして間をおかず、問題解決の戦略的な設計図となる「見立て書」を作成する。「依頼者は理屈を聞きにくるのではなく、自分の抱えている問題の具体的な見通しを聞きたいわけです。ですから問題解決に至るまでを計画的に想定して、設計図をつくること。そして設計図に従って迅速的確に実践していくこと。これが当事務所の考える『解決力』です」
事案の整理、法的根拠の整理、解決までの所要時間など、「見立て書」には入力項目が設定されており、作り直した場合も作成履歴は保存され、変化の過程を検証できるようになっている。また、「E ルーム」の機能では案件ごとに、ほかの弁護士も自由に閲覧することができ、スレッドでの発言も可能。解決過程の手法、クオリティーをリアルタイムで確かめられるため、若手弁護士の業務管理、育成に大きく役立っているという。
「松原所長は職人かたぎの高いスキルを持った弁護士、若手に教える現場の姿は、まさに親方。学ぶことばかりです」と話すのは、安岡隆司弁護士(57期)。60期、61期の若手弁護士が多い同事務所であるが、「何でも話し合える。仕事がやりやすい」と皆が口をそろえて言うように、事務所は自由闊達(かったつ)な雰囲気に満ちている。取り扱い案件が企業法務、温泉ホテルの再生、高齢者の資産管理、相続問題、水利権・温泉権問題、不動産、交通事故、家事・刑事事件など多岐にわたっている点も、
弁護士の意欲向上につながっている。
「よりよい仕事をすることと、新人弁護士教育は一体」だと語る松原弁護士。「私が提供したいのは、迅速・的確・親切な仕事を実現できるスキル。当事務所で働く価値をここに見いだしてほしい」と力強く語ってくれた。