「あの法律事務所はどんな事務所?」意外と知らない「働く場」としての法律事務所を、編集部があなたに代わって取材します。編集が見たオフィスのこだわりや工夫もご紹介。
「起業を成功させるためのノウハウに『ナンバーワンになる』というのがありますよね。たとえば日本で一番高い山はすぐに分かりますが、二番目になった途端に名前が出てこない。それを弁護士業界で考えたら、刑事事件の分野には技術も経験も豊富な先生はいらっしゃるけれど、一般市民からは誰が刑事弁護に熱心な弁護士か見えにくい。であれば刑事弁護専門を打ち出せば依頼者のニーズを取り込めるはずだし、事件を受けることで経験も自然と身についていく。そう確信して事務所を立ち上げました」(岡野武志弁護士・現61期)
私選の刑事弁護専門を看板に昨年9月、産声をあげたアトム東京法律事務所。設立にあたっては集客の仕方が肝と考え、ウェブマーケティングを徹底研究。数カ月をかけて作り上げた入魂のサイトは実例などの具体的な情報、万全のSEO対策で数多くの依頼者を呼びこんだ。設立からわずか1年で受任件数は年間100を優に超えるペースに。最近では薬物問題などに関するメディアへの出演依頼も急増している。
「扱うのは刑事事件が100%。内容は薬物問題、性犯罪、交通事故、財産犯がそれぞれ4分の1です。依頼は何らかの手段でサイトを見た方がほとんどで、弁護人を替えたいという相談も結構あり、原因の8割はコミュニケーション不足。たとえば身柄を拘束されていて家族にこれを伝えておいてほしいと弁護人に話しても、結局家族には届かない。こういったケースは多いですね」。依頼者との信頼関係を崩さないために、報告など細かい部分も徹底して行うのが岡野弁護士のやり方。被告人の言い分は、経験則でこれはダメだと切り捨てず、気持ちをくんで意見書に反映させる。
同事務所の強みは早期の受任。「事件を放っておいて被害者との関係が悪化し、処罰感情が高まり起訴になるケースがありますが、早い段階から着手すれば不起訴で落とせる確率は上がります」。日々感じているのは「あきらめモードでやって来る相談者が多い、実際に話を聞くとまだどうにでもなる事件は多い」ということ。振り込め詐欺で3件起訴され、3件目が起訴される直前に弁護人を替えたいと依頼を受けた事件。最終的に実刑にはなったが、最初の弁護人が求刑8年程度と言っていたのを2年6カ月の判決に持ち込んだ。こうした依頼者から届く感謝の手紙は日を追うごとに増えている。「事件はとても流動的で、相談者は緊急性が最も高まったタイミングで飛び込んで来る。そこですぐに始められるのが、この仕事のやりがいです」
現在弁護士は2名。事件は主任制で各自が受け持つ。松岳祥児弁護士(新61期)は、働く魅力を「自由に意見が言えるところ」と語る。この8月にはオフィスを移転。広くなったスペースにはこれから入所する62期2名のデスクも用意してある。今後は「法人化と大阪事務所の設立を計画している」という岡野弁護士。数ある法律事務所のなかでダントツの刑事事件数を誇る同事務所。課題を聞くと「タフな人材を育てること」と笑顔で答えてくれた。