改正弁護士法以降、弁護士の新しい働き方として注目されているインハウスロイヤー。ビジネスの第一線で働く面白さや、具体的な業務内容、今後の展望等を通じて、インハウスで働く魅力や醍醐味を紹介していきます。
「私がいま携わっているのはコンテンツビジネスです。ディズニーのエンターテインメントコンテンツをセールスし、プロモーションを含めた総合的な提案をしています。4月に『パイレーツ・オブ・カリビアン』がテレビで連続放送されましたが、同じコンテンツを4週にわたって放送する地上波初の試みは、私のチームでおぜん立てをしました。商品に付加価値を付けることも重要なので、新作映画の公開に合わせて来日したジョニー・デップからのコメントも用意。そのほかディズニー傘下にあるABCテレビのドラマもセールスしています。『LOST』『デスパレートな妻たち』が一例で、地上波、BS、CS、ケーブルなどすべてのテレビ局と動画配信を行う企業が顧客です。それらコンテンツセールスと同時に制作にも関与しています。『LOST』最新シーズンの真田広之さん出演、日本放映が始まった『フラッシュフォワード』の竹内結子さん起用は、私がABCに働きかけました。ABCのドラマは160カ国で放送されていて、海外セールスがとても重要。日本とアジアマーケットをにらんだこのキャスティングスタイルは、社内でジャパンモデルと呼ばれています」
エンタメ業界の最前線で活躍する田中氏も、キャリアのスタートは弁護士。今に至る経緯をご説明いただいた。
「弁護士を経てエンターテインメントに携わるようになった経緯には、父の仕事の関係で9歳から2年間過ごしたアメリカでの体験が影響しています。そこでは『日本では今でもちょんまげをしている』というような誤解にショックを受けましたが、一方で折り紙や漢字を教えれば『素晴らしい文化がある』と感心してくれるので、相互理解を深めればもっと良い関係になれると感じたものです。そういう体験から『日本と外国の橋渡しをしたい』と考えるようになり、帰国後も英語の勉強を続けて通訳ガイドの資格を取りました。ところが就職が迫ると進路に不安を感じるようになって、当初はつぶしが利くという発想で司法試験を目指したのです。合格後は『渉外事務所の弁護士こそ民間の外交官』だと考えを改めて、最初に選んだのが西村眞田法律事務所※1でした。事務所では訴訟とコーポレート分野を担当。得意な英語を生かそうと海外訴訟に手を挙げ、関心があった知財やエンターテインメント分野も積極的にやりました。そして4年後にニューヨークへ留学。資格取得後は法律事務所のワシントンとブリュッセルのオフィスに勤務しました。国際機関が集まるワシントンでは国の枠を超えて活躍する人々に刺激を受け、ブリュッセルでは自分自身もEUの大きな枠組みのなかで知財や特許などの業務を担当。世界を相手に仕事をする魅力を体感し、またマイクロソフトのソフトウエア保護案件などにかかわり、知財・エンターテインメント分野の面白さを再認識しました。ロイヤーとしてスケールの大きなエンタメにかかわりたいと模索しましたが、同時多発テロ9・11※2が起きて米国はロイヤー総失業という時期でした。日本でインハウスロイヤーになることを決意して帰国。2002年、ウォルト・ディズニー・ジャパンに入社しました」
ロイヤーがマネジメントに活躍するディズニーで得た経験とチャンス
氏の入社は、ディズニー・チャンネル立ち上げ準備の真っただ中だった。
「ディズニーは全世界に約500名のリーガルを擁していますが、日本法人の有資格者(日本)採用は、私が初めてでした。パラリーガルもデータベースもないところから土台作りに着手。まず日本のケーブルテレビ局に対してアメリカの契約書をそのまま使うことができなかったので、ひな型を日本用にカスタマイズしました。また当時はメンバー8名がマルチタスクをこなしていたので、私もリーガル業務をしながら、営業サポートなど実にさまざまな仕事を担当。1年の準備期間を経て03年ディズニー・チャンネルがスタートしました。その後、今度は社内に新規事業をフリーに考える事業開発セクションができ、ビジネスに突っ込んだ私の取り組み姿勢が評価されて、事業開発を任されました。やってみると必要なスキルは、マネジメント能力やロイヤー的なロジックと事務処理力、そして情熱。見回せば米国本社にはロイヤー出身のマネジメント職が多数います。ディズニービジネスは著作権法などをベースに、契約に基づいてすべての実務が動くため、ロイヤーのスキルが発揮できるのです。そして私も現在、バイス プレジデントの職に就いています。ここまでに法律事務所から知財やエンタメ部門立ち上げのオファーが複数ありましたが『ハリウッドレベルのエンタメ』を目指すようになった私には、もうディズニーのスケール以外は考えられませんでした」
異色に見える経歴も目標に向かって着実に進んだ結果だと、田中氏は語る。
「私のキャリアを『回り道』と言う人がいますが、自分はそう思いません。弁護士になるために勉強し、身に付けたスキルや資格があって、今の仕事ができています。入社当時『映画のプロデューサーをやりたい』と言って『畑違い』と笑われた私ですが、チャンネル立ち上げやコンテンツセールスも『映画プロデューサー』という目標のための過程と考え、そこでロイヤーのスキルも存分に発揮した結果、ドラマのキャスティングやコンテンツのプロデュースにもかかわれているのです。自身の経験からも、付加価値としてロイヤーの資格ほど便利なものは少ないと思います。アメリカはロイヤーの資格で多方面にキャリアが広がるのに、日本では限られた仕事しか想定しない傾向がある。もっとクリエーティブに考えれば選択肢は多彩なはずです。ロイヤーの資格を目標のために大いに活用してください」