弁護士会員数は、52弁護士会の中で最多の5,455名。(2008年4月1日現在 )。 東京弁護士会会長に就任した山本剛嗣氏からは、今後の活動に向けた抱負をお話しいただいた。
私の抱負は大きく3つあります。1つ目は、すでに施行された被疑者国選弁護制度の対象となる犯罪の拡大により飛躍的に件数が増加する被疑者弁護制度と、裁判員裁判制度が来年5月から開始されるので、当会管内で遺漏なく実施できるように準備態勢を整えること。2つ目は、2010年までに司法試験合格者を年3000人まで増やす法曹人口増員計画に対し、懸念されている就業の支援体制を構築すること。そして3つ目は、当弁護士会と会員間および会員相互の意思疎通を高めるとともに、当会の活動内容を一般の生活者にもっと認知してもらう施策を講ずることです。
まず、1つ目の被疑者国選弁護制度の拡大実施について。被疑者弁護制度を「法テラス」(日本司法支援センター)が担うことについて、一部の弁護士から批判があります。法テラスの監督官庁は検察を擁する法務省であり、いわば訴追側がそこで活動する弁護士を管理監督する構造はふさわしくないのではないかというものです。
こうした構造となったのは、日本法支援センターの設立にともない、㈶法律扶助協会が行っていた民事法律扶助事業が同センターに承継されたことに端を発しています。このときは、同じ組織が被疑者国選弁護制度の対象となる刑事事件を扱うという認識はありませんでしたが、ほかに適当な組織体制も考えられず、現行の形でスタートしました。しかし、全国78カ所の事務所所長は全員弁護士が就任しており、スタートして1 年半が経過した現在まで、訴追側からの弁護活動への干渉という懸念されるような事態は全く生じていません。とはいえ、今後も引き続き監督官庁の動向に注意を払うとともに、望ましい組織のあり方を検討し、弁護士サイドのプレゼンスを維持していくように努めます。
裁判員裁判制度への対応については、実施までに同裁判に精通する弁護士を少なくとも200人は養成したいと考えています。そのための講習のスケジュールはすでに定められていますが、そこに参加する弁護士をいかに予定どおり確保するかが課題となるでしょう。ご承知のとおり、裁判員裁判は従来の裁判と全体の流れは同じでも、プロの裁判官が書面をもとに審理する方法から、そこに一般人の裁判員が加わり、口頭で検察官と弁護士のプレゼンテーションを受けて審理する方法に変わります。審理スピードも速まります。つまり、一般人にいかにわかりやすく、かつ正確に弁護の論点を伝えるかが勝負となるわけです。
弁護技術は大きく変わることになります。刑事事件を扱う弁護士は、意識的にトレーニングを積まなければならないでしょう。日弁連の支援も受けながら、各地の弁護士会とも連動してしっかり進めていきたいと思っています。裁判員裁判に精通した弁護士を一定数確保する活動は大阪弁護士会が一歩進んでいますので、東京弁護士会としては追いついていきたいと考えています。
「即独弁護士」を支援する「チューター制度」を導入
次に、2つ目の法曹人口の増員についてですが、その前に現状の整理をしておきたいと思います。
まず、弁護士会としては、法曹人口の増員を伴う司法改革そのものには大いに賛同しており、各方面でそのために必要な協力は惜しまずに活動してきました。しかし、それはあくまでも従来のような弁護士像を、暗黙ではありますが前提としていたのです。その前提のもとに、法科大学院がつくられ、司法修習体制も再構築されました。
ところが、06年9月に実施された59期修習生の卒業試験では、1,493人中107人が「落第」し、結果的に16人が法曹資格を得られなかったという異例の事態となりました。60期は不合格率4.8% です。卒業試験は、実務が普通にできることを確認するもので、不合格者は従来、ゼロから数人程度でした。それが、法科大学院で学び、司法試験に合格し、司法修習を受けていながらも、ごく基本的な知識すら満足ではない修習生が存在していたことに、我々法曹関係者は大きな衝撃を受けたのです。
しかも、新60期(06年11月修習開始)から司法修習期間は1年間に短縮され、新61期からは2カ月間の導入修習が廃止されています。さらに、新規法曹を年間9000人まで増やせと主張する人もいます。司法修習や法科大学院のあり方は本当にこれでいいのか、現状に大きな疑問が立ちはだかっていると見るべきでしょう。法曹人口の増員は国の施策ではありますが、その大きな問題に対し、法曹界の一翼を担う弁護士会としても、果断にメスを入れる必要があると認識しています。
その一方で、現実にも速やかに対処していかなければなりません。52期までの司法修習は2年間で、4カ月間の実務修習期間がありました。しかも、新人法曹は年間500人という規模で、弁護士事務所という「巣」が十分に行き渡っていたといえるでしょう。ところが、これからは毎年、導入修習を受けていない数千人の新人弁護士が、いきなり社会に巣立っていく現実があります。弁護士事務所やインハウスロイヤーとして企業に就職できればまだしも、「即独」を選択せざるをえない人も少なくないはずです。その就業に、弁護士会として支援をしていく必要が大いにあるでしょう。というのも、いきなり事務所を設けても、仕事の獲得から実務の遂行まで、どこからどう着手すればいいかは簡単な問題ではないからです。
個人的には、「即独」を選択した人などのために、どういったことでも気軽に相談できる「チューター制度」を導入してはどうかと考えています。弁護士会が先輩弁護士を仲介する機能を持つわけです。その場合、先輩弁護士は実質ボランティアとならざるをえないと思いますが、どの範囲まで行うのかといったことなどを詰めなければいけません。会員の皆様の知恵とご協力をお借りしたいところです。
一般への認知を深める対外広報を強化
そして、3つ目の当会における意思疎通の向上についてです。当会のコンピューターシステムが陳腐化しており、目下更新作業を進めています。その主な目的は弁護士会内部の事務作業の効率化にありますが、システム更新の一環としてホームページもリニューアル予定。本年10月に第1段階としての更新実施を予定しています。従来、会員への情報は主に紙媒体を用いていましたが、今後は、ホームページやメールマガジンなど電子媒体をより活用していきたいと考えています。ホームページでは会員に有益な情報を提供するとともに、一般の方にも、委員会活動など当会におけるさまざまな活動を紹介していきます。
思えば、弁護士会はこれまで、人々の生活に役立つさまざまな活動を、しかもボランティアとして手がけてきました。たとえば、クレジット・サラ金問題では、多重債務者救済のために破産制度を使いやすいものにし、業者と粘り強く交渉しながらグレーゾーン金利を廃止する法律を実現させました。こういった活動は、ほとんど一般の生活者には知られていないのです。もちろん、一義的には我々が広報活動に関心を払わなかったことに原因があります。しかし、司法を一般の生活者に近づけるための司法改革が行われている現在にあって、対外広報活動は不可欠の取り組みと言えるのです。
社会の人々から尊敬される存在であり続けたい
以上の3点以外にも、懸念材料は多くあります。まず、道半ばである法曹一元化問題。これは、以前よりそのために用意されている「弁護士任官制度」を、我々弁護士サイドがより積極的に活用すべき問題であるという反省に立って取り組む必要があると認識しています。この制度に応じる弁護士の数を増やすために、公設事務所を中心に、任官から戻ってきたときの受け入れ先を確保するなどの対応策を検討していきます。
また、検察における取り調べの全過程の録画・可視化を求めている問題について、3月21日に最高検は「容疑者が捜査段階で自白した場合、取り調べ過程の一部を原則として録音・録画する」という方針を明らかにし、その後警視庁や大阪府警でも実施される方針が示されました。これは、我々が求めているものと大きな隔たりがあります。引き続き、あるべき「全過程の可視化」を求め、主張していきます。
いずれにせよ、我々弁護士には、社会正義を追求し、社会的弱者を救うという崇高な使命があります。その活動は、人々が幸せな一生を過ごすことができるような社会づくりにこそあると考えます。そして、我々はそれを着実に果たしてきました。これからは、グローバル化がますます進展し、社会がより複雑化するでしょう。そういった環境にあって、今後、法曹人口が増え、司法の基盤が社会の隅々まで拡大します。だからこそ、今までのような正しい取り組みを続ける必要がある。そして、これからも社会の人々から尊敬される存在であり続けたいという思いが募るばかりです。