横浜弁護士会会長の武井共夫氏からは、横浜弁護士会独自の取り組みや地域の実情などについてお話しいただいた。
横浜弁護士会は、今年の秋には会員数が1000人を超えるのが確実な情勢です。会長に就任するにあたり、力を入れていきたいと考えているのは、この規模にふさわしい体制と実力を備えた、神奈川県民や他の弁護士会から信頼される組織づくりをしていくことにあります。
そして、昨年12月の臨時総会決議で取り決めた「横浜弁護士会10の決意」(次ページ参照)を、会員やスタッフの皆さんの力を借りて着実に推進していきます。
そのためにも、まずは横浜弁護士会の存在を、県民に十分に認知してもらう活動に重点的に取り組みたいと思っています。というのも、「横浜弁護士会は、果たして県内の生活者や企業の法的なニーズに応えきれているだろうか」という強い問題意識があるからです。
神奈川県は東京都に隣接していることもあり、東京の弁護士に依頼する県民が多く存在しています。「地元にも弁護士会がある」ということを、もっと多くの県民に知ってもらう必要が大いにあると思っています。それ以前に、弁護士の活動内容そのものへの理解もまだまだ不足しています。最近はテレビのワイドショーなどで弁護士がバッシングを受けるような報道もあり、誤った先入観を持たれている懸念もある。また、いよいよ始まる裁判員裁判への正確な理解をもっと促進する必要もあります。それらのためには、当会の情報発信力を高めなければなりません。
その施策として、まずはウェブサイトの拡充に取り組みたい。現状のサイトの充実度は、残念ながら東京弁護士会のものと差があります。東京は5000人と、横浜の5倍の会員を抱えているとはいえ、このままでいいとは思いません。東京に負けないものをつくります。これはあくまでも私案ではありますが、ネットの双方向性を生かして、会員弁護士を紹介してオンライン法律相談や法律相談予約を受けるコンテンツなどを立ち上げてみたいと考えています。ただし、双方向においては、問題のあるアクセスを受けるリスクがつきものですので、慎重に検討する必要があるでしょう。また、最近の若手の会員は、同期でメーリングリストを作って活用しています。そのように電子ツールが発達・普及したことで、会員への情報発信・連絡はやりやすくなりました。とはいえ、現在はまだファクスが主な連絡手段となっています。日弁連では年間2800万枚の紙を使うように、弁護士の活動は大量の紙の使用を伴います。環境問題も考慮すべく、できるだけ電子ツールに移行し、ペーパーレスを図っていきたいと考えています。
以上の施策を実行に移すために、新年度より正式な組織である「IT委員会」を新たに発足させました。従来はプロジェクトチームでしたが、本格的な活動に格上げします。委員の皆さんに大いに期待しています。
基地問題など地域固有の課題への取り組み
今年は、関東十県会50周年記念大会や関東弁護士連合会定期大会などがここ横浜で開催されます。これらを成功させることも、会長として大きな仕事になると認識しています。
横浜弁護士会の地域的な特色として、米軍の基地をめぐる問題があります。県内には厚木、座間、横須賀と3つの米軍基地があり、夜間発着訓練の騒音や米兵による犯罪など、基地固有の問題が発生します。会の人権法委員会に基地部会を設け、問題の実態調査・報告を行ったり、同様の問題を抱える山口や沖縄などの弁護士会と連携して、基地問題を考えるシンポジウムを開催するなどの活動を行っています。シンポジウムには岩国市や座間市の市長を招き、自治体や弁護士会の役割について議論、提言をまとめています。
横浜弁護士会は、愛知、福岡の両弁護士会と3会で交流会を持っています。両弁護士会は、地域で主体的に責任を果たしていこうという気概が強くありますが、横浜はそれに比べ、強大な東京弁護士会がそばにあるということから、やや控え目に振舞う傾向があるように思います。しかし、1000人という規模を考え、東京3会に負けな
い力をつけていきたいと思います。今後は、会の存在感をより積極的に打ち出していくように心がけていきます。
一方、1000人ともなると、会の内部の雰囲気も変わってきているのも事実。以前は、新人含め、全員の顔がわかっていましたが、さすがに現在では顔がわからない会員が増えてきました。結束力をどう向上させるかが課題といえるでしょう。弁護士登録10年目までの弁護士による「若手協議会」と積極的に交流していきたいと考えています。
研修を強化し裁判員裁判制度へ対応
さて、いよいよ来年度から裁判員裁判制度が始まります。現在までに、裁判所、検察との法曹3者によるさまざまな協議や勉強会が持たれていますが、施行を前に、この1年は弁護士会内の研修を強化したいと考えています。パワーポイントを使用したプレゼンテーション技術の練習や、効果的な尋問や弁論などの研修を予定しています。
その前に、一般の生活者である裁判員に、従来の法曹の常識は通用しないという認識を新たにする必要があるでしょう。
たとえば、従来は若年者の被告人を弁護する場合、「若いから更生の可能性が高い」と述べて裁判を有利に進めようとしていました。しかし、一般人には、なぜ若ければ更生の可能性が高いといえるのかがわからないのです。逆に、高齢であるほうが人生時間が少ない分、もう悪いことはしないのではないか、若ければまだやり直しがきくから、また悪いことをしてしまう危険性があるのではないか、というわけです。
また、法曹の常識では、前科がないことは有利な条件でした。しかし、一般人は「前科がないのは当たり前の人間ではないか。特段有利とは思えない」と考えます。したがって、なぜ有利なのか、理由を一言添えてプレゼンテーションしなければなりません。常識でしたから、従来は裁判官や検察官から法廷で「なぜ有利なのか」と質問されることはありませんでしたが、裁判員からは聞かれる可能性があるのです。常識ですませていたことを聞かれても、とっさには回答できないこともあるでしょう。だからこそ、そういった問題を念頭にトレーニングを積んでおく必要があるのです。
一部の弁護士会は、裁判員裁判を延期すべきという意見を決議しています。その意見にも一理あるでしょう。しかし、私は現在の刑事司法のあり方は変えていく必要があると思っています。市民参加はその大きなトリガーになるはず。取り決められた裁判員裁判制度はベストではないかもしれないが、ベターであることは間違いないと思っています。大いに期待したいところですし、我々としても今年1年間、しっかり準備をして間に合わせたいと考えています。
弁護士にとっては変化の大きな面白い時代
大きな司法改革の一つである被疑者国選弁護人制度については、法テラスのあり方への反対意見や、国選弁護人の報酬が安いといった問題があり、我々弁護士会の力だけで解決していけるのかという懸念があります。細かな話になりますが、被疑者に接見するために警察署に行くわけですが、警察署は交通の不便な僻地にまで散在しており、人数の少ない支部の弁護士だけではまかないきれないという問題があります。基本的には、本部の会員が支部の事件を受け持たざるをえなくなると見ていますが、課題は大きいでしょう。しかし、会としての自主性、自立性が試されていると認識し、努力して解決していくしかないと思っています。
横浜の法テラスは、全国でも珍しく所長、副所長だけでなく事務局長まで弁護士が務めています。弁護士会の意見が吸収されやすかったわけですが、今後、法務省の影響力がどう及ぶか注視していく必要があるでしょう。いずれにしろ、弁護士会には法テラスを国民側に引きつけるという重要な役割があるのは間違いありません。
法曹人口の拡大による就業支援にも力を入れていきます。たとえば、就職説明会には弁護士が比較的手薄な支部エリアの事務所の参加を要請し、受け入れを促進させます。すぐに事務所を構えて独立する弁護士のOJT支援にも取り組んでいきます。
人口増による質の問題が懸念されていますが、近年、弁護士同士の相互監視力が弱まっているように思います。お互いに研鑽しあう風土づくりに意識的に取り組む必要があるでしょう。
人口が増えて、食べていくのが大変になるという意見があります。それは事実でしょうが、前向きに取り組むことで新たなニーズが生まれ、仕事のチャンスも広がるのです。たとえば、消費者庁の設立に日弁連として参画したり、多重債務者問題に取り組んで立法化を実現させたりと、弁護士は社会を変えることに大きくかかわることができます。弁護士にとっては、変化の大きな、面白い時代がきていると思っています。
地域でがんばる弁護士の皆さん、共に市民から信頼され、頼りにされる体制をいかにつくっていくべきかを考えてください。